戦後、学校教育法の考え方から生まれることとなった通信制高校。高等教育を受けたくても受けられなかった人達のためのものから、時代を経るごとにその役割に変化はあったのでしょうか?現代の子ども達が通信制高校に求めるものは多種に及んできています。
通信制高校側もそのニーズに応えるため様々な教育を提供するようになりました。現代の通信制高校とはどのようなもので、どのような役割があるのかについてご紹介していきます。
増え続ける通信制高校
現代の通信制高校は各方面に多様化してきました。2000年頃から現在に至るまで、通信制高校に通う学生の数はさほど変わってはいません。少子化傾向にあることを考えると、その割合は少しずつ増加しているとも言えます。
しかしそれ以上に通信制高校の学校数は近年右肩上がりに増加しているのです。それは将来目指す職業や、生活の多様化により通信制高校に対する考え方が変わり、単に通信で高校課程を卒業するという目的にとどまらなくなったからです。
様々な専門分野について同時に学べたり、夢に近づく一つの選択肢として考えられるようになりました。その為、通常の全日制高校では提供できないようなカリキュラムを提供する通信制高校が増えてきていることも、この増加の要因の一つと考えられます。
そもそもの通信制高校の役割とは
昭和23年に初めての通信制高校が設立されました。学校教育法のもと「教育の機会均等を保障しなければいけない」という流れを示したのです。現実は終戦後ということもあって、経済的に不安定な家庭も多く中学校を卒業すると働きに出る子どもは多かったのですが、そんな子ども達も働きながら高校レベルの教育を受けることができるというのが通信制高校の最大の役割でした。
その後高度成長期に入ると今度は人手不足から地方の子ども達がかり出されます。その多くは中学校を卒業したての子ども達だった為、企業内に施設を作り技能連携制度を利用して通信制高校の単位にする、という手法で高校卒業資格が得られるようにした企業もありました。
ある意味、そういった特典で若い労働力を集めていたとも言えます。高度経済成長期が終わると通信制高校を選ぶ子ども達が増えるようになりました。多くは全日制高校を中退した子ども達で、不登校や病気、障害を持つ子、いわゆる不良と言われるようなちょっとやんちゃな子ども達でした。
現代になるとさらに通信制高校を選ぶ子ども達はその目的が変化してきます。アスリートなどが通信制高校を選ぶようになったのが大きな転機だったかもしれません。トレーニングに集中したり、試合や遠征もあるため全日制のように出席日数が必要とされる学校に通うのは難しくても、通信制高校ならその両立が可能だからです。
各時代によってニーズは様々ですが、通信制高校は均等な教育を保証するという一番大事な役割を常に担ってきたのです。
今からでも遅くない!大人になってからの高校生活
様々な理由で高校に入学することができなかった、または卒業することができなかったという人が、大人になってから学びたいと言う時に通うことができるというのが通信制高校の役割の一つでもあります。通信制高校に入学するのに年齢制限はありません。
中学を卒業している(または卒業見込み)であれば誰でも新入生として入学することができます。また、高等学校の決まりとして3年以上の在籍が必要という事になっているので、全日制高校や定時制高校と同じく最低3年は在籍している必要がありますが、出席日数の概念がない単位制をとっているので学年というものもありませんから、3年またはそれ以上かかっても単位さえ取れれば卒業することができます。
その為すでに就業している人でも、仕事をしながら自分のペースに合わせて勉強することができるのです。学校によっては文化祭や修学旅行など学校行事があるところもあります。もちろん苦手とする人もいるでしょうが、本来楽しめるはずだった年代に楽しめなかった人にとっては思い出作りになると人気だったりもするのです。
子供たちが救われる場所
学校の雰囲気になじめず、1日2日と休むうちに不登校になってしまった子どもや、病気や障害などで通学することが困難な子どもなど、様々な悩みを抱えた子ども達が新しい居場所を求めて通信制高校を選ぶこともあります。
同じような悩みを抱えていることから、それまで友達に恵まれなかったという子どもも友達ができて、スクーリング(登校日)で会うのが楽しみで仕方がないという子もいるほどです。通信制高校ではスクーリングの日数も年に数回の学校から週に5回など、何回でも通学しても構わないというような学校まであります。
自分のペースで無理なく学習していけるということと、枠のない自由な学習環境は、子ども達に新しい出会いとやりたいことへの道しるべとなってくれているようです。
専門スクールとの連携から生まれる夢への道
近年増加してきた私立の通信制高校には、子ども達の興味や目的に応えることのできる専門コースを開設しているところもあります。アスリートや芸能関係をはじめ、ファッションや美容、海外留学、調理やIT関係まで多種に及んでいます。
例えば俳優や声優を目指していても、本当にこの夢は叶うのかと心配になる事もあるでしょう。すべてをかけて打ち込むというのも大切ですが、もし夢が叶わなかったときどうしたらいいかわからなくなるかもしれません。しかし通信制高校なら、高校の勉強も進めていくことができます。
そのうえ自分がやりたいと思うことに多くの力を注ぐことができるのです。現在の通信制高校では若者の幅広い可能性に応えるという役割も担っているのかもしれません。
技能連携で専門知識も
技能連携校を選んで入学すれば、技能連携制度を利用して通信制高校に入学すると同時に高等専修学校にも入学し、3年間で2つの学校を卒業するということもできます。高等専修学校では職業別の専門的な知識を学んだり、実践的な体験をすることができます。
技能連携をすることで同時に高等教育も受けることができるのでとても効率的とも言えます。勉強量が大量になって大変そうにも思えますが、技能連携制度を利用した高等専修学校で学んだ専門科目は、最大半分まで通信制高校の卒業に必要な単位として認められるので、単純に学習内容が倍になるというような心配はいらなさそうです。
ただ、専門的なことを学ぶため登校頻度が高くなる傾向にあります。とは言え、卒業後は専門分野の資格を取って働きたいと考えている人や、学びたい分野が決まっている人には向いているでしょう。
就職へのアピール力
企業が新しく採用するとき学歴というのは確かに重要なポイントであるでしょう。しかしそれだけでなく、近年では企業の方も様々なタイプの人材を募集するようになりました。学歴だけでなく学生生活でどのような経験をしてきたかを重視するようになってきたのです。
例えばボランティア活動をしていたのなら、どんなことに力を注ぎ、トラブルなどがあった時にはどんな対処をしたか、そして自分にとってどんなものを得ることができたかという“人間力”を重要視するようになったのです。
通信制高校を選んだ経緯…例えば不登校になってしまったことから通信制高校に編入し、そこで新たな人間関係を築くことができて、様々なことを学んだり考え方が変わるような経験をしたとなれば、他の人にはない十分なアピールポイントになるはずです。
また、専門分野に特化して習得することに励んだという事もアピールになるでしょう。通信制高校にはそんな風に、子ども達が自信をもって社会に巣立っていけるような教育を提供するという役割もあるのかもしれません。
参照:高校通信教育